体性感覚と痛みについて
私たちは、目を閉じていても「手がどこにあるか」「どのくらい力を入れているか」を感じ取ることができます。これは、体性感覚と呼ばれる「自分のカラダを把握するための感覚」の働きによるものです。
この体性感覚には、特に以下の2つが深く関わっています。
身体所有感(自分のカラダの一部だと感じる感覚)
この2つが正常に機能していることで、私たちはスムーズに動き、痛みを適切に感じ、バランスの取れた姿勢を保つことができます。
しかし、体性感覚が乱れると、
「本来は痛くないはずの場所が痛い」
「自分のカラダが思うように動かない」
といった問題が生じます。
1.体性感覚とは?
体性感覚は、皮膚や筋肉、関節、内臓などに存在する感覚受容器がキャッチした情報を、脳が処理することで生じます。
体性感覚には、主に次のような種類があります。
| 体性感覚の種類 | 役割 | 具体例 |
|---|---|---|
| 触覚 | 皮膚の感覚を捉える | 風を感じる、物に触れる |
| 固有受容感覚(深部感覚) | 筋肉や関節の動きを感じる | 目を閉じても手の位置が分かる |
| 温痛覚 | 温度や痛みを感じる | いものに触れると反射的に手を引く |
この中でも、固有受容感覚が「行為主体性」や「身体所有感」に深く関わるとされています。
① 行為主体性とは
「自分が動かしている」という感覚を意味します。
行為主体感(Sense of Agency)とは、「自分が自分の意思でカラダを動かしていると感じる」感覚のことです。
例えば…
- 自分で腕を上げると、「自分で動かした」と感じる
- 他人に腕を持ち上げられると、「自分が動かした」とは感じない
このように、同じ動きでも「自分が動かした」と認識できるかどうかが違います。
行為主体感が乱れるとどうなる?
行為主体感が低下すると、以下のような症状が現れることがあります。
- 動きがぎこちなくなる(意識しないとスムーズに動けない)
- 「自分の動きではないような感覚」が生じる
- 過度な力みや不自然な姿勢が続く
これは、脳が「自分の動きだと感じる」ことが難しくなっているためです。
適切な運動や徒手療法で感覚を再統合することが大切です。
② 身体所有感とは?
「自分のカラダの一部」という感覚を意味します。
身体所有感(Body Ownership)とは、「このカラダは自分のものである」という感覚のことです。
例えば…
- 手を見たときに、「これは自分の手だ」と自然に感じる
- 義手をつけている人が、自分の手のように感じることがある(ボディ・イリュージョン)
これは、脳が「この部分は自分の一部だ」と認識しているために起こります。
身体所有感が乱れるとどうなる?
身体所有感が低下すると、以下のような現象が起こります。
- 自分の手や足が違和感を感じる(「しっくりこない」感覚)
- 痛みを強く感じたり、逆に感じにくくなったりする
- 幻肢痛(失った手足の痛みを感じる現象)が起こることもある
慢性的な腰痛の人が「腰に違和感がある」「何かが張り付いているような感覚がする」と感じるのも、身体所有感の乱れによる可能性があります。
触覚刺激(軽いタッチ刺激)・運動・徒手療法で身体感覚を回復させることが重要です。
2.痛みとの関係 〜体性感覚の乱れが痛みを引き起こす〜
体性感覚が乱れると、脳が適切に情報を処理できず、「本来は痛くないはずの場所が痛い」といった現象が起こることもあります。
例えば、
- 慢性腰痛 → 「腰に違和感があり、力が入りづらい」
- 肩こり → 「自分の肩の動きが鈍く感じる」
- トリガーポイント → 「痛みの場所と実際の問題がズレる」
これは、脳が
「どこに力を入れるべきか」
「どこが本当に痛いのか」
を正しく判断できなくなっているために起こってしまうのです。
3.体性感覚を整える方法
体性感覚の乱れを改善するには、「触れる」「動かす」「意識する」ことがとても大切です。
- 筋膜リリース・マッサージ(触覚を刺激し、脳の認識を正す)
- トリガーポイント療法(筋膜の異常な緊張を整える)
- フロッシング(圧迫とリリースで固有受容感覚を高める)
- バランスエクササイズ(行為主体性を高め、自然な動きを取り戻す)
- ムーブメントエクササイズ(正しく安全な動きを獲得する)
- ミラーセラピー(鏡を使い、身体所有感を回復する)
このような施術やエクササイズを通じて、「自分のカラダを正しく感じる」ことができれば、痛みや動きの問題も改善しやすくなります。
- 体性感覚は「自分のカラダを感じるための感覚」であり、行為主体性・身体所有感が重要
- 行為主体性が低下すると、動きがぎこちなくなる
- 身体所有感が乱れると、違和感や痛みを感じやすくなる
- 慢性痛は体性感覚の乱れが関係していることが多い
- 適切なケア(施術・運動)で体性感覚を整えることができる
※当院の院長の小井手智啓は鍼灸師として18年間第一線で活躍しており、日本で代替医療に分類されている国家資格を持っております。また、筋膜ストレッチ(朝日新聞 2016年出版)の監修を歴任するほど、肩こり、腰痛、頭痛をはじめ、多くの現代人が悩む痛みやコリの改善について、その経験と知識を高く評価されております。